[科学で考えるソニックマーケティング]第26回:音で聞く社名、🎵○○○~○ハウス


※本記事は、タクト株式会社のnote「ソニック・アーキテクト(音の総合建築家) ー タクト株式会社」からの転載記事です。

[科学で考えるソニックマーケティング]第26回:音で聞く社名、🎵○○○~○ハウス

メロディだけで分かるソニック・ロゴ?

筆者は朝の支度時間のBGMにYouTubeを視聴しています。視聴といっても身支度をしながらですから、画面は見ておらずラジオ感覚で音だけ聞いています。

YouTubeはコンテンツの間に広告が入りますが、ソニックロゴを使ってメロディに社名を載せている企業もあれば、そうでない企業もある。そんな中聞こえてきたのは、家族の会話とオーケストラのメロディ。

会話とメロディからは社名も商品名も聞こえない・・?

と思った10秒後。

🎵ミ ファ# ソ~  ラソミレ~

🎵◯◯◯〜◯ 、ハウス 〜

そう、社名が言われなくても、聞こえなくても、文字を見なくても、ロゴを見なくても。

メロディだけでわかりますね。積水ハウスさんです。

誰もが知っているこのメロディー。積水ハウスさんの「家に帰れば」というこの曲は1970年に発表されたものだそうです。「かけがえのない幸せや家」を歌うこの曲は、積水ハウスさんの根本哲学である「人間愛」と共鳴しあう意図をもって制作されたと見て良いでしょう。更に、積水ハウスさんは、この「家に帰れば」の「🎵積水〜ハウス〜」の部分をソニックロゴとして、時代や季節に合わせてアレンジを重ねながら50年以上にも渡って使い続けています。

これは、まさに、お見事!

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ソニック・ロゴは企業理念を表すもの

ソニック・ロゴは、それだけを単体で制作・作曲するものでもないですし、広告に起用する歌い手やタレントありきで制作するものでもなければ、商品やシーズンごとに変えるものでもありません。季節や商品や時代背景によってソニック・ロゴのアレンジが変わることはありますが、企業のビジュアルのロゴを商品やシーズンごとに変えないのと同様、ソニック・ロゴは短期間で変遷するものではありません。これはビジュアル・ロゴと同じく、ソニック・ロゴも企業理念やメッセージ、伝えたい届けたいイメージなどが音・サウンドになっているものだからです。

企業理念やメッセージを言葉やビジュアルロゴだけでなく、音サウンドでも伝えることによって、お客様からの共感とつながりを醸成するためのもの。それがソニック・ロゴ。

ではどのように、ソニック・ロゴを制作、作曲するのでしょうか?

まずソニック・アンセムを制作することから始めましょう。企業には「マーケティング・ポリシー」や「ブランディング・ポリシー」がありますね。例えば、販促物のフォントの種類や大きさ、ロゴの色指定、名刺やポスターのロゴ配置、など、詳細に渡るルールが明文化されているかと思いますが、音サウンドのポリシーを持っている企業は、現在のところ日本国内においては少ないかと思われます。

この音やサウンドのポリシーが、ソニック・アンセムです。

そのポリシーは、言葉で書かれたマーケティングポリシーやブランディングポリシーとは異なり、わかりやすく言えば曲でありメロディです。ですからまず「ポリシーとなる企業の30秒程度のテーマ曲やメロディ」を制作し、それに準拠して、ソニック・ロゴや各種音声コンテンツを制作することによって、お客様とのすべてのサウンド・タッチポイントで常に同じ企業理念、メッセージを発することができるという考え方です。

さて、積水ハウスさんの事例に戻りましょう。

積水ハウスさんの「家に帰れば」はソニック・アンセム。そして、時代ごとにアレンジは変わり歌手が変わり楽器が変わっても親しまれている「🎵ミ ファ# ソ~  ラソミレ~ 🎵積水〜 、ハウス 〜」の部分がソニック・ロゴにあたりますので、極めてセオリー通りにソニック・アンセムとソニック・ロゴを構築されておられると言えるでしょう。

さて、そんなソニック・アンセムとソニック・ロゴの関連を示す好事例ですが少し気になる点も・・

住宅は大きなお買い物で、大抵の人にとって「一生にそう何度もない大きな高額の買い物」。

実は廉価な商品を大量に販売する時のBGMと、(少量でも良いので)高価な商品を販売したい場合のBGMは異なります。

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ある酒屋さんでBGMの種類でお客様の購入金額がどう変化するか調査した研究があります。バッハのようなバロック音楽が流れていた日はそうでない日よりお客様のお店での滞在時間が長くなり、より高価なワインが売れたそうです。ここのポイントは、「安いワインがたくさん売れた」ではなく「いつもより高い価格帯のワインが選択された」です。

高い金額の商品は落ち着いた状態で買うもの。

住宅は勢いで買うものではありませんよね。今回の積水ハウスさんのCMでは、冒頭部分、「🎵積水〜ハウス〜」に至るまでの10秒程度、背後でオーケストラが「♪ザザッ、♪ザザッ」とリズムを刻んでいますが、これでは聞き手は「落ち着いた状態」にはならないでしょう。

アクセントやオーケストラの楽器の複数層によって、背後から押されるフォローの風や、進む、前進、などの心理的効果があるため、家の中に進んで「見る」、「何があるんだろう・出てくるんだろう」といった「ワクワク感や期待値」は得られる・・かもしれませんが、むしろこれは「煽られる」に近い感覚といえましょう。

積水ハウスさんは高額な住宅を販売されておられます。このような「勢い、ワクワク、即決・即断!」へ誘導するような、ともすれば「煽り効果」にもなってしまう後押しサウンドを住宅展示場のモニターやスピーカーで検討者に聴取させた場合・・・・

そこで販売されている住宅は価格が安価なものではなく、勢いで購入することはありませんから、かえって逆効果になる可能性が高まります。

むしろ、なめらか・柔らか目のゆるやかに流れるようなゆったりとしたオーケストレーションで「🎵ミ ファ# ソ~  ラソミレ~ 🎵積水〜 、ハウス 〜」を奏でるほうが聞き手は「落ち着いた状態、気持ち」になりますね。

更に、本編の「お宅拝見」のコーナーのサウンドでは、小鳥がさえずるような高音の現代音楽風のピアノが聞こえますね。A4域より上の域を16分音符のような早い音符打鍵にすることで、空間認識に広さやゆったりとした感じを与えず、また忙しい感覚ともなります。広々とゆったりした空間をアピールしたい住宅メーカーの意図と相反する音のメッセージを発し、聞き手の情報処理にエラーを起こしているように思われます。

長年耳になじんだソニック・アンセムとソニック・ロゴ。音を通じて聞き手に正しく情報を発信するためには、CM全体を通じて科学的な検証を重ねることも大切ですね。

次回以降もソニック・ロゴにまつわるお話を続けて参ります。お楽しみに。

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本記事は、2024年3月30日に執筆されたタクト株式会社のnoteからの転載記事です。
「ソニック・アーキテクト(音の総合建築家) ー タクト株式会社」から全ての記事を読むことができます。

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タクト株式会社 代表取締役社長であり、音楽芸術博士であるミテイラー千穂氏の著書『サウンドパワー わたしたちは、いつのまにか「音」に誘導されている!?』では、「音」と私たちの生活の様々な繋がりや、ビジネスをアップデートするための「サウンド」の重要性などが語られています。

マクドナルドのソニック・ブランディング「i'm lovin' it」から低周波音による健康被害、音による味覚の変化まで、日常のあらゆる場面で音が私たちに与える影響などを具体例を交えて紹介されています。


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