本記事は、朝日新聞の音声メディア『朝日新聞ポッドキャスト(朝ポキ)』が3月26日に開催したイベントのレポートです。朝日新聞ポッドキャストの配信開始から約5年、1億ダウンロードが目前となったタイミングの本イベントには、音声配信や音声広告に関心のある参加者が多数集まりました。
第1部は「人気ポッドキャスターが考えるポッドキャストの可能性」と題して、ラッパーやクリエーターとして活動するTaiTan氏、文芸評論家の三宅香帆氏、フードエッセイストの平野紗季子氏が登壇しました。
イベント紹介
主催
朝日新聞社
開催日時
開催日時:2025年3月26日(水)18:00〜
登壇者
ラッパー、クリエイター。ポッドキャスト『奇奇怪怪』『流通空論』を運営
TaiTan 氏
文芸評論家。ポッドキャスト『こんな本、どうですか?』のパーソナリティを担当
三宅 香帆 氏
フードエッセイスト。ポッドキャスト『味な副音声 ~voice of food~』を運営
平野 紗季子 氏
朝日新聞社
コンテンツ編成本部ディレクター | ポッドキャスト・チーフパーソナリティ
神田 大介 氏(モデレーター)
本イベントはポッドキャストの未来について議論することを目的に、朝日新聞社が開催しました。
第1部はTaiTan氏、三宅香帆氏、平野紗季子氏が登壇し、ポッドキャストの特徴やマネタイズの可能性などについて語りました。聞き手は、朝日新聞社の神田大介氏です。

左から神田大介氏、三宅香帆氏、平野紗季子氏、TaiTan氏=2025年3月26日、東京都内
人気ポッドキャスターが語る、ポッドキャストの魅力
ポッドキャストは好きな人にだけ届くメディア
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』や『「好き」を言語化する技術』の作者で文芸評論家として活動する三宅氏。自身が運営するXやnote、YouTubeと比べて、ポッドキャストは「好きな人しか聞かないメディア」だと語ります。
テキストや動画は広くコンテンツを届けることができますが、それゆえメッセージが正しく届かず本意でない批判を受けることがあります。音声メディアは届く対象は狭いものの、発信者のパーソナルな魅力が伝わることでリスナーは親近感を抱きやすいのではないかと分析していました。
「ポッドキャスト聴いてます」と言われることが増えている
エッセイストやフードディレクターとして活動する平野氏。2025年3月10日、東京駅構内グランスタ東京に「ノー・レーズン・サンドイッチ」の1号店をオープンしました。
ポッドキャストで開店報告をしたところ、「推しが武道館決まった気分」とリスナーからメッセージが届いたそうです。
エッセイストとして単著の刊行経験もある平野氏。以前は「本、読んでます」と言われていましたが、最近では「ポッドキャスト聴いてます」と言われることが圧倒的に増えたそうです。ポッドキャストのメディアとしての間口の広さに驚いていました。
ポッドキャストをクリエイティブ活動の起点に
TaiTan氏は、第6回ジャパンポッドキャストアワードにて、運営するポッドキャスト『流通空論』がパーソナリティ賞(優秀賞)を獲得しました。
音楽活動や文筆業、クリエイティブディレクションなど様々な領域で活動するTaiTan氏。ポッドキャストはクリエイティブ活動の“起点”として機能し、そこから様々なメディアに展開できると強調します。
ポッドキャストで企業ブランディングを実現
番組、広告主、リスナーそれぞれで良い関係性を築く
三宅氏がポッドキャストの収益化について問い掛けると、TaiTan氏は「自分のナラティブをつくるものであり、ポッドキャストで収益化は考えていない」と言い切りました。平野氏も「表現活動の基盤になるもので、マネタイズを意識した番組づくりにはしたくない」と同意します。
一方で、平野氏の番組にはネットショップ作成サービスのBASEがスポンサードしています。平野氏にとってマネタイズで重要なのは、広告主の事業と番組に親和性があること。単なる広告「枠」としてでなく、広告主と嘘や矛盾がない健やかな関係性を築くことによって、メディアとして良い情報発信が可能になるといいます。
広告主と「コラボ」する意義
TaiTan氏は音響機器メーカーであるSHUREとコラボし、ポッドキャスターを支援するオリジナルスニーカー「IGNITE the Podcasters」の開発に携わりました。

引用元:SHUREが、歩くだけで高性能マイクが手に入る世界初のスニーカー“IGNITE the Podcasters”を開発
参考:https://otonal.co.jp/audio-marketing-insights/43967
SHUREから寄せられた依頼は、「ポッドキャスト番組が増えるための企画をつくってほしい」というもの。SHUREはTaiTan氏が講師役を務める勉強会やイベントなどを想定していたそうですが、“ちょっと変わったプロジェクト”化によって、SHUREの製品力とTaiTan氏の企画力のシナジー効果につながりました。
TaiTan氏は「ポッドキャスト活用を検討する企業は、ぜひ自分に声をかけてほしい」といいます。クリエイティブな発想によって企業のマーケティング課題解決やブランディングに貢献できると自信をのぞかせました。
ファンコミュニティ形成のために
情報発信は「持続性」が肝
YouTubeやTikTokを運営するうえで、プラットフォーマーのアルゴリズムへの対応は必要不可欠です。視聴者のエンゲージメントや、プラットフォーマーに合ったタイトルやサムネイルデザイン、視聴者の期待感を維持したコンテンツづくりなど、ともすれば発信者のやりたいことと乖離が生じます。
ポッドキャスト運営で三宅氏、平野氏が意識するのは、メディア運営によって疲弊しないこと。ファンと長く関係性を築くにあたり、情報発信を継続して行える仕組みづくりは重要だといいます。
コンテンツづくりにおいて、三宅氏は“本業”である、書籍の書評にこだわらないと語ります。三宅さんが実践しているのは、「本をどのように選び、買っているのかを実際に見せる」こと。三宅氏にとって自然な形でコンテンツをつくれ、なおかつリスナーの本への興味喚起につながると語ります。
ポッドキャストとプロセスエコノミー
近年、商品やサービスが完成するまでの過程を公開することで共感や応援を集める「プロセスエコノミー」という考え方が注目を集めています。
TaiTan氏は「何をしたかよりも、誰がしたかが大事」と語り、なぜその活動をしているのかといった背景を含めた情報発信を意識しているといいます。
平野氏も時計ブランドであるグランドセイコーとのプロジェクトを紹介。商品の背景に込められたストーリーも音声で伝えたことで、リスナーの共感を呼ぶことができたと振り返りました。
三宅氏は「文章にも書き手の文体があるように、音声にも“文体”がある。発信者の思いを、リスナーの脳内にインストールするような効果があるのでは」と、ポッドキャストの効果について仮説を立てています。
音声メディアが発信者の思いを伝えやすいからこそ、過程も含めた発信者のアクションがリスナーに伝わっていく。ファンと長期的な関係を築くために、ポッドキャストは有効な手段のひとつだと感じられるようなトークセッションでした。
イベント後半のポッドキャストの未来を語る:第2部「音声コンテンツ活用企業と見る最新のポッドキャスト利用実態」のイベントレポートもぜひチェックしてみてください。
参考リンク:
「朝日新聞ポッドキャスト(朝ポキ)」番組・エピソード一覧はこちら
https://www.asahi.com/special/podcasts/