英国のポッドキャスト専門メディア「The Podcast Host」は、ビデオポッドキャストを開始した5人のポッドキャスターに取材し、その効果と課題をまとめた記事を公開しました。

引用元:thepodcasthost.com
ビデオポッドキャストを開始した5人の体験談
現在、ポッドキャストを取り巻く動画活用をめぐっては、様々な議論が飛び交っています。
「動画はポッドキャストを殺している」、「動画はポッドキャスティングを救っている」、「動画をやらないなら、もはや意味がない」など極端な意見も目立つ中、The Podcast Hostはビデオポッドキャストを開始した5人に取材を敢行しました。ビデオポッドキャストの現実と、効果や課題をまとめた記事を公開しました。
DLake氏:『1% Better Runner』

引用元:These 5 Podcasters Added Video – Here’s What Happened
DLake氏は、ランニングをテーマにしたポッドキャスト『1% Better Runner』を配信しています。音声のみで約6年間、40本以上のエピソードを制作してきましたが、思うような成長が叶いませんでした。そこで2023年に25本の動画をYouTubeに一気に公開した結果、公開から18ヶ月で、音声のみで積み上げたリスナー数の3.5倍を獲得しました。なお動画は長尺の収録映像ではなく、YouTube向けに再構成された短尺・解説スタイルのものでした。
- エピソードを10〜15分に短縮
- カメラ目線で話す形式に変更
- スクリプトを作成し内容を整理
- YouTube検索に最適化したトピックを選定
YouTubeでの視聴回数は音声の10〜100倍にもなり、ある動画では1,000人のチャンネル登録者を獲得したといいます。短尺動画を週2回投稿することで、Spotifyでも毎月約100件の新規再生が見られるようになったそうです。動画制作の総投資は約500ドルで、ROIは高いと語っています。
John Kundtz氏:『The Disruptor』

引用元:These 5 Podcasters Added Video – Here’s What Happened
John Kundtz氏は、ビジネス系ポッドキャスト『The Disruptor』を立ち上げる際、初回から映像と音声の両方で収録を行っていました。YouTubeでの拡散性と収益化の可能性を期待してビデオポッドキャストを始めたものの、以下の点が課題となりました。
- 映像編集に多くの時間を要する(事前準備よりも後工程のタスクが煩雑)
- 編集技術に長けておらず、楽しさも感じにくかった
- サムネイル作成などを含め、1本あたり300〜400ドルの外注コストが発生
結局、8本の動画配信後に継続を断念。音声に特化することで配信本数は33本まで増え、AIツール(DescriptやBuzzsprout)を活用して効率化を図っています。
なお、John氏の番組はあくまでブランディングや1対1の営業ツールとして活用されており、大規模なリスナー獲得よりも、効率的な運用を優先していると語っています。
dCarrie氏:『Travel n Sh!t』

引用元:These 5 Podcasters Added Video – Here’s What Happened
dCarrie氏は、旅行をテーマにしたポッドキャスト『Travel n Sh!t』のホストです。53エピソードを音声のみで配信した後、「動画もやってみよう」という気軽な発想から、ビデオポッドキャストを開始しました。
動画編集はdCarrie氏の婚約者が担当したため、動画制作における技術的な負担は少なかったといいます。また撮影スペースの整備やライティングには時間と費用をかけましたが、「録音環境を整えること自体が楽しい」と語っています。
ビデオポッドキャストで得られた最大の収穫は、YouTubeでのコメントや“いいね”が可視化されたこと。音声配信では得られないリスナーとの関係が築けるようになったと感じているそうです。
Matty Lansdown氏:『How to Not Get Sick and Die』

引用元:These 5 Podcasters Added Video – Here’s What Happened
Matty Lansdown氏は、健康とウェルネスをテーマにした番組『How to Not Get Sick and Die』を長年運営しています。エピソード数が230を超えた時点で成長が頭打ちとなり、動画を追加することで打開を図りました。
ビデオポッドキャストを始めて2年で200本以上を投稿しましたが、現在のYouTube登録者数は約800人、月間再生数は5,000〜7,000回。期待していたほどの拡大には至っていません。
- 音声はいつでも収録できるが、映像は準備が必要
- 編集コスト(特にショート動画)は想定以上
- 視覚的に「魅せる」工夫が求められる
とはいえ、Matty氏は「長期的に続ければ跳ねる可能性がある」と考え、ビデオポッドキャストの配信継続を決意しています。ビデオポッドキャストは動画ならではのノウハウと投資が必要であり、「音声とはまったく別物」だと語っています。
Joe Casabona氏:『Streamlined Solopreneur』

引用元:These 5 Podcasters Added Video – Here’s What Happened
Joe Casabona氏は、ソロ起業家向けのポッドキャスト『Streamlined Solopreneur』を9年以上続けるベテラン配信者です。ダウンロード数が落ち始めたことを機に、2024年からビデオポッドキャストの開始を決断しました。
もともと使っていた収録ツールが映像対応しており、編集者も動画編集に対応していたため、導入自体に大きな壁はなかったといいます。追加コストは編集費が約30%増えた程度。
ビデオポッドキャストによる大きな成長はまだ感じられていないものの、YouTubeでのコメントやSpotifyのアンケート機能など、視聴者とのインタラクションが増えたと実感しています。さらに、ゲストとの対話中に「画面越しに見られている」ことで集中力が高まり、より良いインタビュアーになれたとも語っています。
ビデオポッドキャスト開始時のヒントと注意点
5人の体験談から見えてきたのは、「ビデオポッドキャストを始めれば必ず効果が出る」という単純な構図ではないということです。番組の形式、目的、制作リソースに応じて、ビデオポッドキャストの効果や課題は大きく異なることが明らかになりました。
- インタビュー形式の番組では、映像の効果がコミュニケーションや集中力の向上につながったケースもある
(例:Joe Casabona氏) - 短尺クリップやYouTube向けに再構成したコンテンツは、再生数や新規視聴者獲得につながったという報告がある(例:DLake氏)
- 一方で、撮影準備や編集に想定以上の手間がかかり、継続を断念した例もある
(例:John Kundtz氏、Matty Lansdown氏)
また、動画制作を楽しめるかどうかも継続の鍵となっており、たとえばdCarrie氏は収録環境を整えること自体を楽しんでいると語っています。またDLake氏は、ビデオポッドキャストの難しさについて次のように語っています。
「視聴されないからといって、悪いコンテンツとは限らない。
正しいスタイル、正しいオーディエンス、正しいプラットフォームの組み合わせが見つかっていないだけ。
見つけたら、そこに全力投球すればいい」
ビデオポッドキャストの開始は、あくまで選択肢のひとつであり、すべてのポッドキャストに必須というわけではありません。自分の目的やスタイルに合った方法を見つけることが、結果として長期的な成功につながるというのが、5人の共通した実感でした。
ROIとは
ROIは「Return on Investment(投資利益率)」の略で、投じたコストに対してどれだけの利益が得られたかを示す指標です。たとえば、動画制作に500ドルかけて視聴者数や収益が大きく伸びた場合、その投資は“高いROIを得た”と評価されます。ポッドキャスト運営においては、時間やコストに対するリスナー獲得やブランド認知の効果を測るうえで重要な指標といえます。
参照元:These 5 Podcasters Added Video – Here’s What Happened
5人中、全員が成功してるわけじゃないのがリアル。