「最近の消費者は、リーチできても認知してくれない」そのように感じている宣伝担当者やマーケティング担当者の方は多いのではないでしょうか? 大手企業の宣伝部やマーケティング部の幹部クラスと話をさせていただく機会も多いのですが、各社同じような認識を持っています。なぜ、消費者はあなたのブランドを認知してくれないのでしょうか?
あなたのブランドが認知されにくい理由とは
これまで多くの企業は、テレビCMや新聞広告などのマス広告でリーチをとにかく獲得して、認知獲得、そして購買へとつなげてきました。そのような企業の上層部は、きっと「マス神話」を持っていることが多いでしょう。
「マス広告を出しておけば、購買につながる。ずっとそうだった。だから、マスに予算を割きなさい」
実際、このような境遇に置かれたマーケティング担当者の方々にはよくお会いします。そして、その担当者が抱えている課題とは「リーチしてもブランドが認知されなくなってきている」という現実です。
考えられる理由はいくつかあります。テレビの視聴者数が低下しているという話もありますし、テレビのリアルタイム視聴が減って、さらに録画で見る家庭が増えてテレビCMが簡単にスキップされているということもあるでしょう。新聞や雑誌の発行部数は落ち込んでいます。従来のマス広告でのリーチ力の低下に加えて、インターネットからの大量の情報供給も認知してくれない問題に拍車を掛けます。
マス媒体の力の低下、さらにインターネットによる様々なブランドによる大量のリーチ。けっしてマス広告が悪いわけではありません。リーチを取りにいくには現代においても有用なチャネルです。ただ、消費者にリーチされども認知されないのは、消費者は、毎日、朝から晩まで、様々なチャネルから、様々なブランドにリーチされ続けているからです。テレビ、インターネット、新聞、雑誌、交通広告など、これだけ様々なチャネルから様々なブランドの情報を与えられると、消費者は本当に関心がないもの以外には、興味を示さないでしょう。
たとえば、学校での60分の授業中に国語、数学、英語、歴史など様々な先生から、様々な教科について同時に教えられても、すべて覚えられるでしょうか? 私はテストで赤点を取る自信があります。英語が好きなので、きっと英語についてはよく聞くでしょうが、他の教科は聞かないでしょう。いや、聖徳太子ではないので、他の教科は「聞けない」が正解です。これが、まさに現代の消費者に起きている状況です。だから、あなたのブランドがどんなに良くとも、どんなにクリエイティブがよくとも、認知されにくいのです。
これまでの消費者行動が変わった
AISAS (アイサス) について、ご存知でしょうか? マーケティングやプロモーションに関わっている方はご存知でしょう。AISASは消費者行動モデルです。特にインターネットが普及した現代の消費者に適用されます。これまでマーケティングやプロモーションのプランニングによく利用されてきました。
A : Attention (認知・注意)
I : Interest (興味・関心)
S : Search (検索)
A : Action (購買)
S : Share (共有)
この消費者行動モデルは 2004 年に電通によって提唱され、すでに 10 年以上が経過しています。そして、最近は AISASモデルが破綻しているという話が出てきました。理由は、Attention が効かないからです。従来は、マス広告などで認知をさせ、興味・関心を引くことができました。しかし、近年はそもそも認知させることが難しいので、以降のプロセスに進まなくなってしまいました。Attention が機能不全を起こしているのです。
2007年に出版された秋山隆平著『情報大爆発―コミュニケーション・デザインはどう変わるか』(宣伝会議)では、消費者の情報消費量をはるかに超える情報が流通する「情報過剰時代」を迎えると、限られた消費者のAttention(アテンション)が消費のボトルネックとなり、企業はアテンションを奪い合うようになると書かれています。
引用 : 電通報 『“Dual AISAS”で考える、もっと売るための戦略。』
秋山氏が予想した通り、消費者にとって情報過剰時代となった今、Attention がまさに "ボトルネック" となっています。そこで AISASモデルを提唱した 電通 とアタラ社 は 2015 年に新しい消費者行動モデルを発表しました。それが「Dual AISAS モデル」です。
引用 : 電通報 『“Dual AISAS”で考える、もっと売るための戦略。』
Dual AISAS モデルは上図のように、これまでの AISASモデル の Attention の周囲に「広めたい A+ISAS」が加えられ、Attention を補強しています。
A : Activate (活性化)
I : Interest (興味・関心)
S : Share (共有)
A : Accept (受容・共鳴)
S : Spread (拡散)
消費者間のコミュニケーションによって、消費者がブランドに興味を持ち、その消費者が第三者へ共有し、その情報を受けた第三者がブランドについて共鳴、さらに第三者へ共有する。つまり、消費者間のコミュニケーションによって強い Attention をもたらし、これまでの AISAS モデルで機能不全を起こしていた Attention を補強するモデルとなっています。
その時、電通が動いた
Dual AISAS モデルについて着目すべき点は、電通が提唱に加わっているということです。このモデルは、これまでの認知獲得チャネルが機能不全に陥っているという前提の元に提案されています。つまり、「マス広告だけでは認知されにくい」とマス広告を取り扱う電通自身が「認知」したと捉えられます。
この情報過多時代に、よりブランドが認知されるようになるためには、Dual AISAS モデルが示すように、いかに「消費者間のコミュニケーションを活性化させるか」が重要となります。従来のようにマス広告で一方的に消費者へ情報を与えるだけではなく、いかに消費者のコミュニティに入り込み、消費者間で情報を行き交うように設計できるのか、これが「消費者にリーチはできても、認知してくれない問題」解決のヒントになるのではないでしょうか。
株式会社京橋ファクトリー 執行役員 COO
前田 裕司