こんにちは、京橋ファクトリーの八木です。
先日、社内で実施していたマーケティング勉強会の中で『コンセプトダイアグラム』という考え方に触れる機会がありました。
『コンセプトダイアグラム』とは、電通アイソバーの清水誠氏が1990年代の情報アーキテクチャ(IA)を元に提唱した、顧客の行動経験を可視化し図式などを用いてユーザー視点・運営視点を表して施策や戦略に落としていくマッピングの方法です。
コンセプトダイアグラムとは、企業が目指す顧客の気持ちの変化の「ステップ」と、その心理変化を起こすための具体的な「施策」を図解したコミュニケーション戦略マップです。ビジネス全体(オンライン・オフライン)の戦略を捉えた上で、Webサイトの役割を明確にし、PVやセッション、直帰率といったWeb解析の一般的な指標に囚われず、顧客の視点で見るべきKPIを定義し、データに基づく施策の評価・改善を実現する分析フレームワークです。
–引用:電通アイソバー コンセプトダイアグラム
似たような手法として『カスタマージャーニーマップ』が挙げられますが、『コンセプトダイアグラム』はカスタマージャーニーマップよりもシンプルで、ユーザーの行動を想定しその動きに対して施策を打ち手として検討できるという点で柔軟です。
我々のような、またプロダクトが完全に固まり切らず新しい機能やマーケティングの打ち手を頻繁に行う必要のあるベンチャー企業にとっては目的やフェーズで使い分ける部分はあるにせよ、有効な戦略検討の手法だと感じました。
『耳をすませば』の天沢聖司を例に『コンセプトダイアグラム』を書いてみる
この手の手法は一見するとパッと理解できない部分もあるので、理解を深めるために実際に書いてみることにします。まずは一回考え方を理解するという意味で全体をなぞれるよう、具体的な事例をもとに作成をしてみようと思います。
戦略的で周到なマーケティングの事例としてパッと私の頭に思い浮かんだのは、ジブリの誇るイケメン戦略ストーカー『耳をすませば』の"せいじくん"こと天沢聖司です。
そこで今回は『コンセプトダイアグラム』の理解を深めるべく、『耳をすませば』の天沢聖司から見た月島雫のコンセプトダイアグラムを作成してみます。
ターゲットのペルソナは月島雫
『コンセプトダイアグラム』を考える上で、まずはペルソナを考える必要があります。今回の天沢聖司がコンバージョンさせたいユーザーは月島雫なので、彼女をペルソナとして整理してみます。
ペルソナ:月島雫
・中学3年生
・女
・家族4人暮らし
・趣味:読書
・性格:ロマンチスト
『コンセプトダイアグラム』では、ユーザーの行動を合わせた施策を検討するため、ペルソナの興味、関心事といった感情面の動機を理解する必要があります。
受注したいプロダクトは天沢聖司
次に、ユーザーを何に対して、どのようなゴールに導きたいのかを明確にします。通常であれば、こちらにマーケティングする対象商品のことです。今回は「天沢聖司」がその商品に当たります。こちらについては、5W1Hで整理をしてみたいと思います。
WHAT:提供するもの
・天沢聖司
WHEN:展開時期
・夏から冬に掛けての中学3年の間の数ヶ月間
WHERE:場所
・成績桜ヶ丘近郊の某中学
WHO:ユーザー
・読書好きな同じ学校で隣のクラスの月島雫
WHY:ユーザーが商品を選ぶ理由
・まあまあイケメン
・夢を追って自分の道を進んでいるところ
HOW:獲得手法
・図書室の貸し出しカードへの広告掲載
・ネコとネコの人形を活用したインバウンドマーケティング
といった感じになるかと思います。
今回の最終ゴールは「プロポーズの成功」が最終のコンバージョンになります。
実際にコンセプトダイアグラムを書いてみる
まずはペルソナを左上に配置。そのペルソナから連想される感情的な興味関心、行動の動機を2軸で記載します。月島雫はロマンチストで読書好きですので、横軸を「ロマンチックな出来事」、縦軸を「読書と物語を書くこと」としてみました。
また今回のゴールは「プロポーズの成立」なので、ゴールを右下に配置します。
まず最初の打ち手です。このコンセプトダイアグラムでは
・黄色が月島雫の気持ちの変化のステップ
・赤文字が天沢聖司によるペルソナの心理変化を起こさせるための施策
を表しています。
まず最初の施策として天沢聖司は月島雫の読む図書館の本を予測し、先行して自分が借りることで①の貸し出しカードに自分の名前を表示させる方法を取りました。これによって、ユーザーである月島雫は「天沢聖司」の名前を貸し出しカードで認知することになり、聖司のねらい通りその名前が気になり始めます。
ここで、敏腕マーケター天沢聖司は次の仮説としてこう考えます。「雫はロマンチストで小説のような物語に憧れている。だからきっと猫が電車に乗っていたら、わくわくしてそのあとを追ってくるのではないか」と。このように『コンセプトダイアグラム』ではユーザーの感情的行動動機から次の施策を検討します。そして、その結果が以下です。
②のネコのムーンを使って自宅でもある「地球堂」に月島雫を呼び寄せることに成功。
これによって雫には「地球堂に出会えたワクワク」という気持ちの変化が起こります。この変化は雫のロマンチストな性格によって引き起こされているため、右横軸に動きます。
次に起こる聖司と雫のコミュニケーションでは、聖司と地球堂で出会い③の爺さん達の楽器と聖司のバイオリン演奏にのせて自身の作詞した「カントリーロード」を歌います。
この時に歌った「カントリーロード」は雫が翻訳し、詞をつけた曲です。雫は自身の作詞した曲で楽しい瞬間を共有したことで「嫌な奴のイメージの払拭」という気持ちの変化がおこり、これは雫の物語を書く(=詞)ことの楽しい気持ち(縦軸)をくすぐって起きた気持ちの変化のため縦軸の下に動きます。
そして、その後④の聖司の祖父でもある地球堂のオーナーによって、雫は目の前のバイオリンの少年の名前が「天沢聖司」であることを知ります。これによって起こる次のステップは雫のロマンチストな性格に起因して起こる気持ちの変化のため、また右横に動きます。
この後、⑤の聖司のバイオリン製作をする職人になる夢と進路の話によって、雫は自身の進路を考えている焦りを感じつつ、聖司への想いに確信を持ち始めます。
そして⑥のステップで自身の好きなもの、やりたいこととを見つめながら自身もやるべきことに挑戦する決意をします。縦軸の下にステップが進むかたちで聖司への気持ちが強まっていきます。
最後は⑦⑧にて偶然が重なるという出来事によって、雫にはさらにロマンチックな気持ちの変化がおこり、最終的なゴールであるプロポーズが成功するというコンバージョンに至ります。
まとめ:ユーザーの「気持ちの変化」と「変化をおこす施策」をマッピングしてゴールに導く戦略を立てる
以上のようにペルソナの感情の軸の上で、
・「気持ちの変化」
・「変化を起こす施策」
をマッピングしていくことで、ユーザーをゴールまで誘う戦略を検討するのが『コンセプトダイアグラム』の特徴です。アプリなどのプロダクト開発で用いる場合には施策ではなく、機能と置き換えてみるのがよいと思います。
私自身、今回、天沢聖司で考えてみたことで、『コンセプトダイアグラム』について理解が深まりました。
あらためてマッピングしてみて、彼の戦略的手法には脱帽ですが、自社のプロジェクトでも天沢聖司に負けないような秀逸な戦略を描くために『コンセプトダイアグラム』を活用してみよう思います。
代表取締役社長
八木太亮