デジタル時代に、ラジオ局の役割はどのように変化するのか。ラジオ業界のキーパーソンにインタビューをする本企画。第1回は、株式会社エフエム東京の執行役員ビジネスソリューション局長を務める嶋 裕司氏に、オトナル代表の八木 太亮が話を伺いました。
「お客様の期待に応えながら、デジタル戦略推進を目指していくことが大事」と語る嶋氏。デジタル売上は年150%で成長を続けるTOKYO FMのデジタル戦略が目指す姿から、ラジオ業界の未来と音声×マーティング活用のヒントを探ります。
TOKYO FMの掲げるデジタル戦略とは?
本記事では、株式会社エフエム東京 執行役員ビジネスソリューション局長 嶋 裕司氏に同社のデジタル戦略について伺っていきます。
企業様紹介
企業名:株式会社エフエム東京
URL:https://www.tfm.co.jp/
FMラジオ放送事業者。ステーションネームはTOKYO FM。日本最大のラジオネットワークJFNのキーステーションとして、全国38局に向けた放送も行う。「FM放送事業者からオーディオコンテンツ事業者へ」を掲げ、インターネットを活用したコンテンツ制作・配信やイベント企画など様々な事業を展開している。
- ゲスト:株式会社エフエム東京 執行役員ビジネスソリューション局長 嶋 裕司氏
- 聞き手:株式会社オトナル 代表取締役 八木 太亮
この対談は下記から音声でもお聞きいただけます。
FM放送事業者からオーディオコンテンツ事業者へ
TOKYO FMにおける嶋様の役割
八木(オトナル):本日はよろしくお願いします。さっそくですがTOKYO FMにおける嶋さんの業務内容や役割について教えていただいてもよろしいでしょうか。
嶋(TOKYO FM):私は2001年から営業局で勤務し、昨年度まではデジタル戦略局長として、TOKYO FMのデジタル戦略の推進役を担いました。
今年の4月に組織再編があり、デジタル戦略のBtoBに携わる「デジタル部門」と「営業局」が統合し、「ビジネスソリューション局」という部署が新たにつくられました。従来のデジタル戦略推進とともに、スポンサー様をはじめとするお客様向けの事業推進の責任者という役割を担当しています。
「ビジネスソリューション局」誕生の経緯
八木(オトナル):「ビジネスソリューション局」という新部署がつくられたのは、どのような経緯だったのでしょうか?
嶋(TOKYO FM):2020年にTOKYO FMは50周年を迎えました。そのとき私たちは、「FM放送事業者からオーディオコンテンツ事業者へ」を経営方針に掲げました。電波を通じて番組を放送するだけでなく、デジタル領域でもコンテンツを配信していく。現在も音声が中心ですが、テキストや動画など音声以外のコンテンツも含めて、収益の柱をつくっていこうという経緯があり、現在に至ります。組織再編による新部署の誕生にはこの「オーディオコンテンツ事業者」ヘの標榜ということが背景にありますね。
その成果もあり、ここ数年は年150%成長を実現しています。特にデジタルの売り上げは急成長しているので、 この流れをきちんと放送事業にも組み入れていきたいと考えています。
八木(オトナル):つまりラジオ局がラジオだけを提案するのではなく、音声を基軸にした複合的なデジタルマーケティングに対応できる事業者になるべき、という考え方ですね。
日本最大のラジオネットワークを持つFMラジオ局「TOKYO FM」
八木(オトナル):改めて、TOKYO FMについても教えていただいてもよろしいでしょうか?
嶋(TOKYO FM):私たちは今年で53年目のFMラジオ局になります。TOKYO FMというのは、株式会社エフエム東京が運営しているステーションネームですね。代表的なところでは、桑田佳祐さん、松任谷由実さん、福山雅治さん、木村拓哉さん、山下達郎さんなど、名だたる方々に出演いただいています。
また当社は、JFN(ジャパンエフエムネットワーク)という、TOKYO FMをキーステーションとしたFM最大のネットワークを有しています。北海道から沖縄まで全国放送ができるFMラジオ局ということで、多くのリスナーの皆様に聴取いただいています。
ラジオの強みを生かした「コンテンツDX」を目指す
TOKYO FMがデジタル領域に注力するワケ
八木(オトナル):近年、TOKYO FMはデジタル領域に力を入れている印象があります。
嶋(TOKYO FM):はい。先ほど申し上げた通り、2020年にオーディオコンテンツ事業者を標榜したのですが、それまでもデジタル領域における取り組みは続けていました。
ラジオの地上波だけでは成長が危ぶまれるという危機感を持っていたからです。欧米のように、デジタル化と組み合わせることでラジオも成長を目指したいと考えました。
試行錯誤を繰り返す中で、原点であるラジオというメディアの強みに戻っていきました。ビジネスソリューション局は営業のセクションなので、セールス戦略のキーワードがありまして、「コンテンツDX」と称しています。 ラジオを真ん中におきながら、どのように「コンテンツDX」を目指していくかという考え方ですね。そういった展開の方が、スポンサー様にも刺さる提案ができるという実感を持つことができてきたんです。
まず地上波の番組が真ん中にあって、その番組から派生した音声や動画、テキストなどのオリジナルコンテンツがある。それらをSNSで拡散したり、時には効果検証というように、スポンサー様にいろんなソリューションを提供していくのがコンテンツDXという戦略方針です。
八木(オトナル):なるほど、それでいうと我々オトナルにはディスプレイ広告などの運用型広告をやってきたメンバーも多いのですが、運用型広告ってどうしてもいかに効率的に広告枠を買うかという話になるんです。
一方で、メディア企業である御社がコンテンツを中心に据えてデジタルと連携していくという考え方はメディア企業でしかできない戦略だと思います。
デジタル時代だからこそラジオ局にしかできない取り組みを
八木(オトナル):パーソナリティが読み上げる「ホストリード広告」のような、ラジオ局だからこそできる取り組みは多いですよね。
嶋(TOKYO FM):はい。もともと私たちは、スポンサー様と一緒にコンテンツをプロデュースして、コンセプトをつくりながら社会に展開していくという取り組みを行っていました。
例えば日本航空様と55年間、一緒にやらせていただいた人気番組「JET STREAM」。「旅への誘い(いざない)」というキーワードで、音楽と旅のスクリプトで展開していた番組でした。まだ海外旅行が一般的でなかった時代に、海外旅行への憧れを生み出せたと自負しています。
ヘビーリスナーの購買率は9.7倍。データをもとに「ラジオ」という商品の価値を伝える
膨大な聴取ログをマーケティングに活用する
八木(オトナル):DXといえば「データ活用」が肝になります。TOKYO FMではどのようにデータをビジネスに取り入れているのでしょうか?
嶋(TOKYO FM):デジタル戦略局では、コンテンツ部門とデータマーケティングの部門に分かれていました。私はデータマーケティング部門の責任者も担っていたので、特にここ4年間はデータを活用したマーケティング活用に注力してきましたね。
当時も今も、リスナーは「radikoで番組を聴く」という習慣が根付いています。私たちは東京CDP(カスタマーデータプラットフォーム)というデータ基盤をつくっているのですが、ここにJFN38局分、毎日のradikoの聴取ログをストックしています。それらのデータが何かに使えないか検討を進め、現在は当社独自のプラットフォームで運用しています。
リスナーの購買率の上昇をデータで可視化
嶋(TOKYO FM):例えば広告主様にスポンサードをいただいた番組で、リスナーが広告主様の商品をどれだけ買っていただけているか。それが一般の方と違ってどれだけ多いか、という購買実証ができるような体制も整えています。
八木(オトナル):いわゆる「購買リフト」と呼ばれる効果検証手法ですね。どのような結果が出ているのでしょうか?
嶋(TOKYO FM):夕方に放送している「Skyrocket Company」という番組は、株式会社桃屋様にスポンサードをいただいています。そこで紹介した桃屋様のある商品に関して、ヘビーリスナーの購買率は、一般の方よりも9.7倍という結果が出ました。
放送時間帯が夕方なので、リスナーの移動経路の中で買っていただいているのかもしれません。「動画よりも音声の方が長期記憶に向いている」というradiko調査結果もありますので、商品のことを記憶いただき、購買につながっているのかなと感じます。
広告主様にとって、番組提供や広告出稿で「結果的にどれくらい売れたのか?」が当然ながら問われますよね。私も営業を16年やっていましたので、広告主様の要望にきちんとお応えしたいとずっと思っていました。TOKYO FMとしても年に2〜3回、こういった結果とともに、ラジオという商品の価値を伝えるためのプレスリリースを発信しています。
「AuDeeでしか聴けない」が、若年層の心を掴んでいる
月間220万リスナーが利用するポッドキャストプラットフォーム
八木(オトナル):TOKYO FMの音声サービス「AuDee(オーディー)」は、どのようなサービスなのでしょうか?
嶋(TOKYO FM):AuDeeは2020年7月にサービス開始し、ちょうど3年ほど経ちました。TOKYO FMとJFN38局が連携したオリジナルのポッドキャストプラットフォームということでイメージいただければと思います。現在は月間220万リスナーに利用いただいています。
TOKYO FMとJFN38局の番組に加え、「AuDeeでしか聴けない」オリジナルコンテンツもどんどん増やしています。地上波の番組と比べて、若いリスナーの方が増えているという印象がありますね。ラジオはオンタイムで聴いていただく方が多いですが、AuDeeの場合は比較的オフタイム聴取が多く、休日や夜、お風呂の中などで聴いていただけることが多いように感じます。
地上波ラジオと相互に連動して機能するAuDee
八木(オトナル):AuDeeの運営で意識されていることはありますか?
嶋(TOKYO FM):リスナーとの接点を色々な形でつくることが大事だと考えています。過去番組の様子をテキストでまとめ、AuDeeで読めるようにする取り組みもその一環です。
最近では、AuDeeから生まれた番組がヒットし、地上波に展開するというケースも生まれています。グローバルボーイズグループのINIは、先にAuDeeで番組を始め、人気を集めたことで地上波で番組を持つようになりました。
当初はAuDeeをグロースさせようという考え方を持っていました。もちろんAuDee単体で利益を生むことは大切なのですが、今は、より視野を広げたマルチプラットフォーム戦略に方針転換しています。現在はAuDeeに番組をアップロードすれば、同時に各ポットキャストプラットホームにアップロードされます。こういった様々な手段を通じて、リスナーに聴いていただく機会をつくりたいと考えています。
今後のTOKYO FMのデジタル領域における展望
八木(オトナル):デジタル領域の施策を考えるにあたって、大切にしていることは何ですか?
嶋(TOKYO FM):ラジオ局の発想だけでは終わらせないことです。色々な考え方をどんどん取り入れてやっていくことが大切だと思います。トライアルを重ねる中で、良いものも悪いものも出てくるでしょう。今はフレキシブルに対応しながら、都度判断しているという状態ですね。
当社の戦略のひとつに、「オープンイノベーションによる外部企業連携」というものがあります。TOKYO FMには色々なパートナー企業との出会いがあるので、お互いの強みを組み合わせながら、新しいチャレンジを模索したいと考えています。
ラジオとデジタルの最適な形の模索し、ラジオそのものの成長を目指す
八木(オトナル):今後のTOKYO FMのデジタル領域における展望について教えてください。
嶋(TOKYO FM):昨年度、当社のデジタルの売上目標は10億円でした。結果的に8億円台でしたが、今期は8月だけで月間1億円の売上高を記録しています。BtoBの規模の方がまだ大きいのですが、動画やオンライン配信も好調で、BtoCのポテンシャルの高さも感じています。
ラジオ局なので、音声コンテンツを軸にしながらも、ラジオとデジタルの最適な形の模索は今後も続いていくでしょう。ただ売上を上げることだけ目指すのでなく、「お客様にとってプラスになっているのか」も両輪で考えることは大切だと思います。お客様への満足度向上や新しい価値の提供も実現することで、結果的にラジオそのものも成長させていきたいですね。
取材を振り返って
TOKYO FMは2020年、開局から50年を迎えたタイミングで、「FM放送事業者からオーディオコンテンツ事業者へ」というスローガンを打ち出しました。
嶋様はビジネスソリューション局長として、デジタル領域での新しいチャレンジを続けながら、クライアントの広告価値の最大化を目指していることが分かりました。ここ数年は、毎年150%成長を記録するなど、結果も残しています。
ラジオの価値を高めるために、デジタル戦略推進を目指すTOKYO FMのこれからのチャレンジも非常に楽しみです。
この対談はポッドキャストで音声コンテンツとしてもお聞きいだけます。
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ラジオ広告でのデータ活用、思った以上にスゴかった。