インターネットラジオの代表格である「ポッドキャスト」の魅力はどこにあるのか。その配信者であるポッドキャスターへのインタビュー連載「ポッドキャスターに聴く」。
第7回は、『主に日本の歴史のことを話すラジオ』(以下、おもれき)のパーソナリティであるKELLYさんに話を伺いました。
番組制作に大事なことは「継続は力なり」「居酒屋で話すような雰囲気で」と語るKELLYさん。ポッドキャストを始めた経緯や番組制作の裏側について伺いながら、音声メディアの魅力や今後実現したいことを語ってもらいました。
『おもれき』が語る音声メディアの魅力
本記事では、『おもれき』のパーソナリティであるKELLYさんに、ポッドキャストをはじめとする音声メディアの魅力を伺っていきます。
番組紹介:『主に日本の歴史のことを話すラジオ』
URL: https://creators.spotify.com/pod/show/kelly-omrk
『主に日本の歴史のことを話すラジオ』は、歴史好きのパーソナリティKELLYさん、水無月さん、海坊主さんたちが歴史に関する様々なテーマをもとにトークを繰り広げる番組です。
「誰も配信していないなら自分が配信しよう」
──いつ頃から音声メディアに興味を持ち始めていたんですか?
中学生のときですね。ラジカセを買ってもらったことがきっかけでラジオを聴くようになり、今に至るまでラジオを勉強や仕事のお供にしてきました。2000年代にポッドキャストの存在を知り、それからポッドキャストもよく聴くようになりました。

KELLYさん(右)
ポッドキャストを聴いているうちに、次第に自分でも配信がしたくなりました。僕の仕事はソーシャルワーカーで、福祉や介護などの啓発をポッドキャストで発信したいと思い、2012年に『福祉探偵団』という番組を始めました。
──『おもれき』を始めたきっかけは何ですか?
僕は昔から歴史が趣味でした。『福祉探偵団』を配信し始めた当時、歴史をメインテーマとして配信しているポッドキャスト番組はなくて。誰も配信していないなら、自分で配信しようと考えました。パートナーの水無月氏を誘い、『福祉探偵団』での配信経験を活かして、2013年に『おもれき』をスタートさせました。
──番組はどんな人が聴いていますか?
リスナー層は中高年の方が多いです。また、過去に独自でイベントを開催した際には、参加者の半分が女性でした。てっきり僕たちと同じ“おじさん”の集いになるものだと想像していたので、正直驚きました。
参加者の皆様と話をすると、男女関係なく、歴史好きの方がたくさんいらっしゃるのだと実感しました。イベントの親睦会は想像以上の盛り上がりで、僕たちパーソナリティとの交流だけでなく、リスナーさん同士での歴史トークも盛り上がっていましたね。ほぼ全員が初対面のはずなのに、こんなに盛り上がれるんだと感動しました。

イベントの様子
小学生からお便りをいただくこともあります。“おじさん”である僕たちが、昭和の感覚丸出しで少年時代の流行や遊び、テレビ番組の話などをしています。今の小学生にはほとんど分からないような話ばかり。「小学生が聴いて楽しいのかしら?」と不安になりますが、小学生リスナーが大人になって、一緒にお酒を飲めたらいいなあと期待しています。ただ、そのためにはあと10年以上は続けないといけませんね。
このような経験はポッドキャスト配信ならではなので、番組を続けていて良かったと思っています。
いつもの番組、いつもの雰囲気、いつもの歴史トーク
──番組づくりで大事にしていることは何ですか?
2つあります。
1つ目は、「継続は力なり」。ポッドキャストを始めると、聴いてもらいたいからとたくさん配信したいと思ってしまうのですが、無理のない配信ペースを維持することを心がけてきました。
自分たちが収録できる時間は限られていますし、仕事やプライベートでもやることはたくさんあります。「ポッドキャストが楽しいから」とペースを乱してでもやるというのは、いつかどこかでしんどくなってしまうと思います。
2つ目は、「居酒屋で話すような雰囲気で」。ビール片手に、趣味の話題を語り合って盛り上がり、それを隣の席の人が聞き耳を立てている。そんな雰囲気が『おもれき』のイメージです。堅苦しくなく、時に真面目に、時にトンチンカンに、時に脱線したりして、どこにでもあるような友達同士の会話を意識しています。
──番組づくりで注意していることは何ですか?
欲張らないこと、番組の長さ、構成の3つです。
まず「欲張らないこと」ですが、他のポッドキャスト番組を聴いていると、自分たちでもやってみたい、羨ましいと思うような取り組みがあります。しかし、軽率に実行に移してしまうと、仕事もポッドキャスト配信のペースも乱れてしまうので気をつけています。
次に「番組の長さ」です。人の集中力が続くのは60分くらいと聞いたことがあります。僕自身もその通りだと思っているので、『おもれき』では1回の長さは40〜50分くらいになるように構成しています。
個人的に、長尺の番組はパーソナリティの話し方や内容の巧みさが求められると感じていて、それが伴っていないと聴いていて苦痛に感じることがあります。この点からも、「おもれき」の番組の長さは、40〜50分くらいがベターだと思っています。
最後に「構成」です。『おもれき』では、基本的な構成は配信開始当初から変わっていません。構成がたびたび変わってしまうと、聴いている人に負担をかけることになるし、僕自身もしんどくなります。
なので一度離れたリスナーが久しぶりに聴いたとき、「変わっていないなあ」と安心感を得てもらえたらいいなあと思っています。いつもの番組、いつもの会話、そしていつもの色々な歴史トークが、『おもれき』らしさなのだと思っています。
──番組づくりにあたって参考にした番組はありますか?
『流行りモノ通信簿』や『そんない放送部「そんなことないっしょ」』は、ポッドキャスト配信を検討していたときに、どのようなテーマやトークがいいのかとても参考にしました。他にも様々なアマチュアポッドキャストをたくさん聴いて、プロのラジオじゃなくても普通の会話で十分楽しく聴けることを実感しました。
普段からよく聴いている番組は『ラジオ食堂』です。食をテーマに、関西弁での甘口や辛口なトークの聴き心地が良く、紹介しているお店への興味が湧いてきます。実際に番組で紹介されたお店に何度も足を運びました。
あと、インターネットラジオ局「くりらじ」が配信している番組もよく聴いています。パーソナリティのBJ氏の毒舌がたまりません(笑)。長時間の番組なのですが、個人的には数少ない聴いて楽しい長時間番組です。
ポッドキャストは心が若返る
──初めて『おもれき』を聴く方に、おすすめの回はありますか?
年齢や性別を問わず聴いてもらえるように、様々なテーマでトークしているので、まずはご自身が気になったテーマから聴いていただきたいです。
最近で反響が大きかった回は、第560回『邪馬台国論争』、第505回『聖徳太子』、第500回『明治天皇』、第488回『東方見聞録』などです。戦前戦争中の障害者の歴史を紹介した、『戦争と障害者』シリーズ(第574回など)もリスナーからたくさんのお便りをいただきました。
また、テレビなどで紹介しづらいテーマとして、切腹の手順を紹介した第172回『切腹』や第195回『江戸の糞尿事情』も反響をいただいています。10年ほど前の回ですが、大変印象に残っているテーマとして今でもリスナーから感想をいただくことがあります。
──番組を運営するにあたり、マネタイズの取り組みは行っていますか?
オトナルさんの音声広告案件を行っているほか、audiobook.jpでオーディオブックとして配信しているのと、番組グッズの販売もしています。最近では配信500回を記念して、記念冊子を作成しました。ありがたいことにたくさんの注文をいただき、早々に完売することができました。
──今後の目標について教えてください。
いつまで元気に配信が続けられるのだろうかと気になることが増えてきました。恥ずかしい話ですが、番組内でも健康や病気自慢の話題が多くなりましたね。でも、これまで一度も休まず、盆も正月も関係なく配信を続けてきたので、今後も末長く配信を続けることが目標です。
今後もイベントを企画して、リスナーとの交流を深める機会をつくりたいです。ただ、時間的、体力的な課題はひしひしと感じますが、またあの楽しい体験をしたいし、リスナーの皆さんと共有したい気持ちはあります。必ずまたイベントを実施しますので、リスナーの皆さんはぜひ待っていてください。
──これからポッドキャストを始める人へのアドバイスをお願いします。
配信する自分が楽しいと思えることが大切だと思います。自分たちが楽しみながら、コツコツ続けてほしいです。継続は力なり、です。僕たちの場合ですと、ポッドキャストを始めて友情が深まりました。新しい出会いが増え、ポッドキャストを始めるまで想像もしていなかった楽しい経験もできました。
大人になると新しい友達ができる機会がだんだん少なくなるものです。しかし、ポッドキャストを配信していると、何歳になっても新しい出会いや交流、知らなかった業界の人、繋がらないであろう業界の人などと出会えて、ワクワクが増えます。心が若返ります。
楽しく収録し、配信する、これが一番だと思います。ぜひ、繋がりましょう。互いに楽しみましょう。
取材を振り返って
10年以上に渡り配信を続けている『おもれき』。その継続の秘訣と、歴史好きに愛される番組制作の裏側を実感できる取材でした。
インタビューにあたり、KELLYさんと水無月さんから『おもれき』を紹介する音声コメントもいただいています。実際のおふたりの声で番組の魅力が語られていますので、ぜひお聴きください!
主に日本の歴史のことを話すラジオ
連載「ポッドキャスターに聴く」では、今後もいろいろなポッドキャスターの方々にお話をお聞きしていく予定です。その他の記事も「ポッドキャスターに聴く」の一覧ページからチェックしてみてください。