声には「じんわり伝わる熱」が乗る。『サイエントーク』がポッドキャストで科学を発信する理由とは


インターネットラジオの代表格である「ポッドキャスト」の魅力はどこにあるのか。その配信者であるポッドキャスターへのインタビュー連載「ポッドキャスターに聴く」

第6回は、『サイエントーク』のパーソナリティであるレンさんとエマさんに話を伺いました。

声には「じんわり伝わる熱」が乗る。『サイエントーク』がポッドキャストで科学を発信する理由とは

夫婦でポッドキャストを配信するレンさんとエマさんが目指すのは「科学のトピックの集合場所」。ポッドキャストを始めた経緯や番組制作の裏側について伺いながら、音声メディアの魅力や今後の目標を語ってもらいました。

『サイエントーク』が語る音声メディアの魅力

本記事では、『サイエントーク』のパーソナリティであるレンさんとエマさんに、ポッドキャストをはじめとする音声メディアの魅力を伺っていきます。

番組紹介:『サイエントーク』

URL: https://scien-talk.com/

『サイエントーク』は、研究者のレンさんとOLのエマさんの夫婦がパーソナリティを務める科学系のポッドキャスト番組です。現在は渡英しているエマさんと遠距離で収録をしながら、科学の歴史や日常に潜む科学にまつわる疑問、個性豊かな研究者のストーリーを深掘りしています。

声には「じんわり伝わる熱」が乗る

──『サイエントーク』はどのような番組ですか?

レン:「研究者とOLが科学をエンタメっぽくおしゃべりする」をコンセプトにした科学系ポッドキャストです。

「科学」には、ちょっと“お堅い”イメージがあるかもしれません。でも僕たちは、科学には漫画やアニメ、映画と同じような面白さがあると思っているので、「エンタメっぽく」をコンセプトに掲げています。テンションはゆったりめなので、「変な夫婦による、切り口が謎の会話」くらいに思ってくれたら良いなと考えながら毎週喋っています。

エマ:科学の話以外にも、私たちの人生の話や日常生活の話もたまにしています。気軽に聴いてもらえたら嬉しいですね。

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レンさんとエマさん

──『サイエントーク』を始めたきっかけは何ですか?

レン:僕は普段、企業で研究者として勤務しているのですが、大学にいたころから「日本の科学業界って、暗い話題が多くない?」と感じていました。雰囲気が暗い業界にはあまり人は行きたがらないだろうし、これから先、研究の道に進む人もネガティブになっちゃうんじゃないかと思ったんです。

エマ:私は普通のOLという立場で科学の話を聞く側ですが、単純にレン君に誘われて始めました。あまり人前で話すタイプではないので抵抗していたのですが、レン君の熱量に負けました。

レン:一番面白い話し相手が近くにいたので、お願いしました。やっぱり正解でしたね。

──発信の手段は数多くありますが、音声を選んだ理由は何ですか?

レン:声には「じんわり伝わる熱」が乗ると思ったからです。科学の楽しさを伝えようとしても、相手と距離感をつかめないままだと、内容や意図を理解してもらうのが難しいんです。

このように理由は挙げれば色々とあるのですが、単純にポッドキャストを聴いていたらやりたくなったというのもあります(笑)

エマ:ポッドキャストは音だけなので、気軽にできるのは良いですね。最初はパソコン内蔵のマイクに向かってただ喋っているだけでしたが、そこからマイクを買って収録するようになるとは全く予想もしていませんでした。

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ポッドキャストウィークエンドにも出店

番組制作は「雨垂れ石を穿つマインド」

──番組はどんな人が聴いていますか?

エマ:番組が始まった当初は40代以上の方が多かったと思います。最近は中高生から20代・30代の方も聞いてくれるようになりました。

「文系なんですが」、「理科とかそんなに得意じゃなかったのですが」といった、もともと科学に関心がなかった方からも感想をいただけてありがたいですね。

レン:「『科学』のジャンルでポッドキャストを検索していて見つけました!」という人も結構います。研究者の方からもコメントをいただいたり、ゲストに出てもらったりしたこともあります。

知名度はまだまだですが、特定の年齢層や職種などとは関係なく楽しめる番組を作りたかったので、少しずつそこには近づけているのかなと思っています。ポッドキャストウィークエンドなどリアルイベントに参加すると、本当に年齢層や職業など関係なく聴いてくれている方がいると実感して、感動しますね。

嬉しかったのは、学校の先生が聴いてくれていたことです。「授業のネタのアイデア満載で助かっています!」という感想をいただいたのには驚きましたね。自分も先生の“脱線ネタ”が好きだったので、そんなネタを提供できているのかと思うとやりがいを感じます(笑)

エマ:受験生のリスナーもいましたね。他にも、新聞社や企業の広報、プロのアスリートの方など様々な肩書きの方が聴いてくれていてビックリしました。

私たちは配信開始の周年のお祝いで、YouTubeの生配信を行うことがあります。リアルタイムで感想をもらえると、本当に色々な方に聴いてもらっているのだと実感します。

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生配信の様子

──番組作りで大事にしていることは何ですか?

レン:「ありのままの自分を出すこと」と「雨垂れ石を穿つマインド」ですね。ポッドキャストは何か取り繕ってもすぐ伝わりますし、ありのまま正直に誠実に話すことで、初めて聴く人との距離が縮まると思っています。

また、発信者にとってバズりたい欲が掻き立てられがちな世の中ですが、とにかくコツコツと自分が面白いと思う話を”一滴ずつ”でも良いから続けること、そしてその一滴の積み重ねがいつか硬い石に穴を開けるような大きな結果につながると思って継続しています。またサイエンスを語るためには、調査や参考文献が欠かせません。こういった情報もきちんと載せることも大事だと考えています。

エマ:収録以外はほぼレン君が番組運営をしていますが、毎週末に時間を決めて収録をすることがポッドキャストの継続に繋がっていると思います。今はイギリスと日本で時差があるので、ちゃんと時間調整はしていますね。あと収録中は洗濯機や食洗機を動かせなかったり、家事の時間や他の予定との調整も必要なので(笑)

──番組作りにあたって参考にした番組はありますか?

レン:ポッドキャストを始めた当初は『Researchat.fm』や『いんよう!』、『研エンの仲』、『そんない理科の時間』など、科学カテゴリのポッドキャストからヒントを得ていました。

あとはジャパンポッドキャストアワードにノミネートされている番組をたくさん聴きましたね。ただ色々聴いた結果、「僕らが同じようにやってもオリジナリティが無いよなぁ」と感じたので、番組のテイストや見せ方などは自分達で考え、僕ららしい雰囲気を作ろうと心掛けています。

よく聴く番組は、同じ科学カテゴリの『佐々木亮の宇宙ばなし』『奏でる細胞』『生物をざっくり紹介するラジオ』『ものづくりnoラジオ』『ひよっこ研究者のさばいばる日記』『工業高校農業部』などですね。僕は友達の話を聴くような感覚で楽しんでいます。

エマ:『シノブとナルミの毒舌アメリカンライフ』は昔からずっと聴いています。あと、朝日新聞ポッドキャストさんとコラボさせてもらってから、『ニュースの現場から』も時々聴くようになりました。話題のニュースを気軽に聴けますし、やはり一度コラボすると親近感が湧きますね。

リアルイベント「ポッドキャストシンポジウム」も開催

──『サイエントーク』は、「科学系ポッドキャストの日」などの企画を主催しています。

レン:はい。2022年11月に毎月10日を「科学系ポッドキャストの日」として、共通トークテーマについて様々な番組で語る企画を始めたのですが、今ではその企画きっかけで新しい番組を知ることが多く、自分で自分の取り組みの恩恵を受けていますね(笑)

2024年末には科学系ポッドキャストで「ポッドキャストシンポジウム」というリアルイベントを開催し、大きな反響をいただきました。Amazon Musicさんのスタジオで開催できた事も大変ありがたかったです。ポッドキャストの「トークイベント×学会」といった取り組みはずっとやりたいと思っていたので、実現できて良かったです。やはり対面でしか生まれない熱狂はあると思うので、2025年以降もイベントは開催したいと思っています。

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「ポッドキャストシンポジウム」の様子

──初めて『サイエントーク』を聴く方におすすめの回はありますか?

レン:シーズン2の初回である「科学史は究極のドキュメンタリー!ヒトって何が特別なの?【科学史編』」ですね。科学史を現代人が知っておいた方が良い理由や、意外と知らない人間のアイデンティティなどの話をしていて、科学の話題の導入として気に入っています。

シーズン1である最初の87話は僕たちにとっては黒歴史なので、まずシーズン2「科学史と人生史」から聴いてほしいですね。

エマ:私のおすすめは「時計はどう生まれた?アイデアが詰まった時計の科学と歴史!【物理学史編スタート】」です。毎回レン君が冒頭にエピソードにまつわるクイズを出したりするのですが、時計の成り立ちについては考えたことがなかったので印象に残っています。

反響が大きかった回としては、私がイギリスに行くことを発表した「人生史14「離ればなれ、それぞれの道」ですね。2024年から2年間イギリスに行くことを発表したのですが、今までで一番お便りやコメントが多くて、たくさんの応援の言葉をもらいました。

レン:人生史について語っている話はどれも好きなのですが、結婚式準備をリアルタイムで話したことは、記録として残せたことも良かったと思っています。

声には「じんわり伝わる熱」が乗る。『サイエントーク』がポッドキャストで科学を発信する理由とは

──番組を運営するにあたり、マネタイズの取り組みは行っていますか?

レン:大きく分けて「広告」「グッズ販売」「コミュニティ運営」の3つに取り組んでいます。広告については、オトナルさんのPODCASTER PROMOTION経由のホストリード広告のほか、科学系企業から直接ご依頼をいただくケースもありました。

グッズ販売については、エマがイラストを制作しているので、それを使ってしおりやTシャツなどを販売しています。

声には「じんわり伝わる熱」が乗る。『サイエントーク』がポッドキャストで科学を発信する理由とは

サイエントークのグッズ

ありがたいことにリスナーさんのなかにイラストレーターやものづくりをしている方がいて、グッズ制作に協力していただいています。「ポッドキャストをきっかけにこんなこともできるんだ!」と嬉しくなりました。これからも新規性のあるグッズを作っていきたいです。

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リスナーさんがデザインしたグッズ

エマ:コミュニティは「サイエントークラボ」というnoteの有料コミュニティを運営しています。Discordでのチャットや月一回の限定音源を配信していて、とてもゆるい感じですが直接リスナーさんとやり取りできるのが楽しいです。

限定音源は世に出ないので、自由に話していますね(笑)。あとは番組を知ってもらうきっかけづくりとしてショート動画を作ったり、YouTubeの収益化もしています。

『サイエントーク』が目指す「集合場所」

──今後の目標について教えてください。

レン:「科学って面白いかも!」とたくさんの人に思ってもらえるポッドキャストを作りたいですね。そして、科学のトピックの集合場所をポッドキャストで作っていきたいと考えています。

例えば、最近の音楽はネットでバズって有名になったりと昔より多様化していますが、一方で有名音楽番組みたいな「これを見たら良い曲に出会える」という場所が減っている気がします。

科学でも同じことが起きていて、分野がどんどん細分化して何を見たら面白いトピックに出会えるのか難しいという状態になっています。なので、ポッドキャスト上に「これを聴いていたら面白い科学トピックに出会える」という場所を作っていきたいと思っています。要するに、僕はタモリのような存在になりたいのかもしれません(笑)

エマ:目標は「とにかく継続」ですね。レン君のような大きな目標はないのですが、続けていないとできない体験がたくさんあるので、これからも収録を頑張りたいです。

──これからポッドキャストを始める人へのアドバイスをお願いします。

エマ:フレッシュな反応を大事にするのが良いと思います。一回喋ったことをもう一回演技して喋り直すより、一回目の反応の方が絶対に良いので。

レン:確かに『サイエントーク』でも、昔は録り直しをすることがありましたね。

ポッドキャストは始めるまでの気持ち的なハードルが高いですが、熱い想いをもって始めたのならとにかく一緒に頑張って続けていきましょうと言いたいです。ポッドキャストを始めた頃はJAPAN PODCAST AWARDSのノミネートを「羨ましいなぁ~。いつか選ばれるポッドキャストになりたいな」と考えながら家でゴロゴロ眺めていました。

数年続けると色んなリスナーさんとの出会いがあり、その応援のおかげで第6回JAPAN PODCAST AWARDSでは芸能人に混ざって一次審査を通過することができました。素人の番組でも、諦めずチャレンジし続けることで夢は叶うんだ!と感動しました。

パソコンに向かってしゃべるだけに見えますが、そこから広がる新しい世界がポッドキャストの醍醐味です。

取材を振り返って

インタビューにあたり、レンさんとエマさんから『サイエントーク』を紹介する音声コメントもいただいています。実際のおふたりの声で番組の魅力が語られていますので、ぜひお聴きください!

サイエントーク

連載「ポッドキャスターに聴く」では、今後もいろいろなポッドキャスターの方々にお話をお聞きしていく予定です。その他の記事も「ポッドキャスターに聴く」の一覧ページからチェックしてみてください。


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