2024年に日本で初開催となった世界最大の音楽ストリーミングサービスSpotifyによるクリエイティブアワード「Spotify Hits」。
グランプリに輝いたのは、日本ケンタッキー・フライド・チキンの「知られざる定番「和カツバーガー」リローンチキャンペーン『Yes! 和カツ食いに行く』」でした。
本企画を担当した、株式会社博報堂 関西支社CMプラナーの原田真由さんに、音声広告施策の概要や施策後の効果、「Spotify Hits」受賞に至るまでの取り組みについてお聞きしました。
高須クリニックのCM替え歌企画という大胆なアプローチを進めた原田さん。ウェブ動画とSpotify広告の音源を出し分けるなど、映像を使用しなくても「美味しそう」と生活者に感じてもらえるようなキャンペーンを目指したそうです。
本キャンペーンの詳細について伺いながら、音声メディアの魅力と今後実現したいことについて語ってもらいました。
日本ケンタッキー・フライド・チキン/知られざる定番「和カツバーガー」 リローンチキャンペーン 「Yes!和カツ食いに行く」制作の舞台裏とは?
本記事では、クリエイティブアワード「Spotify Hits」のグランプリを受賞した、日本ケンタッキー・フライド・チキンの「知られざる定番「和カツバーガー」リローンチキャンペーン『Yes! 和カツ食いに行く』」の企画を担当した、株式会社博報堂 関西支社CMプラナーの原田真由さんに、キャンペーンの詳細を伺っていきます。
音声広告:日本ケンタッキー・フライド・チキン/知られざる定番「和カツバーガー」 リローンチキャンペーン 「Yes!和カツ食いに行く」
- 広告主:日本ケンタッキー・フライド・チキン株式会社
- キャンペーン名:知られざる定番「和カツバーガー」 リローンチキャンペーン 『Yes! 和カツ食いに行く』
- 企画・制作:株式会社 博報堂、株式会社 博報堂プロダクツ、株式会社博報堂DYメディアパートナーズ、えるマネージメント、株式会社ミューズ、メロディー・パンチ
熱烈なファンの多い「和カツバーガー」の認知度アップを目指す
──今回ご担当されたキャンペーンについて伺います。まずは商品の特徴について教えていただけますか?
原田(博報堂):ケンタッキーが力を入れている「ケンタッキーバーガーズ」というバーガー商品群の中で、熱烈なファンの多い定番商品が「和⾵チキンカツバーガー」です。
バンズに挟まれているのは、いつものオリジナルチキンではなく、チキンフィレでもない、ざくざくした衣のチキンカツ。甘辛い和風のタレに漬け込んで、千切りキャベツとマヨネーズとを挟んだ、とても美味しいバーガーです。
──特に、どんな点を訴求したのでしょうか?
原田:実はこれまで一度もコミュニケーションされたことがなく、認知度の低さが課題でした。そこで発売から10年のタイミングで、「脱・知る人ぞ知るメニュー」を目指すことにしました。
- ケンタッキーのチキンカツを、ざくざく衣とざくざく千切りキャベツで挟んでいる
- てりやきとはまた違う、甘辛い和風のタレとマヨネーズの組み合わせによる美味しさ
- このタイミングで、「和風チキンカツバーガー」から「和カツバーガー」へと改名
という3点を訴求ポイントに挙げています。
──音声広告を実施したきっかけについても教えてください。
原田:もともとはウェブ動画として企画していましたが、CMソングの替え歌に決まったことで、「音声広告にも展開できるのでは?」という話に広がりました。
映像なしで「美味しさ」を伝える
──では、改めて今回のキャンペーンのクリエイティブが生まれたきっかけについて教えてください。
原田:「和カツ」という言葉をしっかり残しながら、バーガーのシズル映像に「美味しそう!+α」の話題性が加わって、普段ケンタッキーに行かない人たちも食べに行きたくなるような企画を目指しました。
──「和カツ」と「⾼須」の韻が印象的ですね。
原田:最初に、「和カツ」と「⾼須」で韻を踏めるなと思いついたのですが、それだけだと、「クリニック」の部分で無理があるので、どうしようかなと考えました。「和カツ食いに行く」であれば、行動を伴うワードとしてコピーになると希望を見出し、高須クリニックさんのCM替え歌で、企画を進めていくことにしました。
ウェブ映像に合わせた歌詞(例えばチキンカツをタレにどぼんと漬け込むシーンで、元曲の「terrible!」と韻を踏んで「タレ、ぼーん!」と歌うなど)は、音声広告だと全く伝わらないので、書き直しています。本家である高須クリニックさんの楽曲の語感やリズムを活かしながら、「『高須クリニック』ではなく、『和カツ食いに行く』のCMですよ!」という意図が、音だけでもしっかり伝わるよう丁寧に調整しました。
──音源にもこだわりがあると聞きました。
原田:音源は、高須クリニックさんのCMも手掛けたSOFFetのYoYoさんにプロデュースをお願いしました。想像を超える熱量で、素晴らしいアレンジの数々を仕上げていただきましたね。
ウェブ動画では原作に忠実な音源を使用しましたが、Spotifyで流すなら「聴いていてより気持ちいい方が良い」ということで、NEWアレンジバージョンを使用しています。
さらにASMRの考え方で、“揚げたてシズル音”を加えようという話になり、音源の良さを損ねない範囲で足していくことで、映像なしでも「美味しそう」と感じる音源が完成しました。
──広告施策の効果や、実施後の反響について教えてください。
原田:Xでは公式アカウントのエンゲージメント数が歴代トップの数値を記録しました。さらには「Spotifyで『高須』だと思ったら『和カツ』だった」、「だれか聴いた人いる?」といったオーガニックのポストも散見されており、メディアを超えて発話が生まれたのは良かったなと思っています。
この企画は、高須クリニックさんのCMの圧倒的認知度、楽曲『Beautiful Smile』、力強いサウンドロゴの資産をお借りできたことが全てです。高須院長や本家CM楽曲チームの皆さまのご協力に大変感謝しております。
エンタテインメント性の音声広告は、SNSでの拡散を期待することもできる
本キャンペーンについて、日本ケンタッキー・フライド・チキン株式会社の担当者にも話を伺いました。デジタル音声広告の特徴や、今後期待することについてコメントを寄せていただいています。
──デジタル音声広告と旧来のデジタル広告やラジオ広告等との違いについて、どのようにお考えでしょうか?
日本ケンタッキー・フライド・チキン株式会社(以下、日本ケンタッキー・フライド・チキン):デジタル広告は画像や動画を使って主に視覚的に訴求する広告、旧来のラジオ広告はリアルタイムに投下される電波に乗せた広告だと考えます。デジタル音声広告はポッドキャストや音楽ストリーミングサービスなど、音声コンテンツに特化したプラットフォームで配信され、リスナーの行動や嗜好から精緻なターゲティングができ、広告戦略に合わせて出稿タイミングや出稿量のコントロールも可能である点が強みです。
今回のクリエイティブのようなエンタテインメント性が高い施策の場合、SNS上での拡散に結びつけることができ、その効果を拡大できる可能性があることも旧来型の広告との大きな差だと感じています。
──今後、デジタル音声広告に期待することを教えてください。
日本ケンタッキー・フライド・チキン:デジタル化が当たり前となった現代、多くの生活者は、移動中やプライベートの時間など様々な場面において、音楽、音声コンテンツ、ポッドキャスト、ラジオのタイムシフト聴取などの音声媒体に接しています。マーケティング視点では、企業から生活者にアプローチできる機会や方法が大幅に進化し、選択肢も多様化しつつあると捉えています。
今回の「和カツバーガー」リローンチキャンペーンはパロディのアプローチで展開しましたが、意外性や面白さだけではなく、視覚的要素がなく音声のみで音楽に合わせて商品の特徴を伝えることにより、画像や動画を見せる以上に注意を引き、商品認知を獲得し、さらに各リスナーの想像の中で美味しさが伝わったのではないかと思っています。また、SNSでの拡散を期待することもできるデジタル音声広告には今後も大いに期待しています。
今後も、発話が生まれやすい企画を
────音声広告において、原田さんが挑戦したいこと、今後実施したいことを教えてください。
原田:デジタル音声広告に限ることではありませんが、エンタテインメント性が高いクリエイティブは生活者にも楽しんでもらえることを再認識しました。もちろんクライアントの商品特性を理解し、コミュニケーション施策の目的に沿った内容であることは前提ですが、これからも発話が生まれやすいような企画を考えていきたいですね。
流出音声と間違われるリアルな会話広告のようにハプニング色の高いものや、ヒューマンロボットと人類の戦い実況中継広告のようなファンタジーすぎるものなど、画を作らなくていいぶん、攻めた内容に挑戦しやすいのが音声広告の魅力です。
今後も色々なチャレンジを形にできるよう努めていきたいと思います。
取材を振り返って
日本ケンタッキー・フライド・チキンの「和カツバーガー」リローンチキャンペーンは、一度聴いたら耳から離れない高須クリニックのCMのパロディですが、SNSで大きな話題を巻き起こした舞台裏には、細部まで計算尽くされた言葉、楽曲、シズル音の組み合わせがあったからだと分かりました。
デジタル音声広告は、まだまだ無限の可能性がある。そう思わせてくれたからこそ、日本初開催となったクリエイティブアワード「Spotify Hits」のグランプリに輝いたのだと感じます。